[携帯モード] [URL送信]

偽りの名 呵々闘諍の日記(力水の書いたやつ) 決闘時空まとめページ
2012-12-31(月)
決闘時空(デュエルスペース)初期ボツ案 ※ネタバレ注意

呵々「うわぁん、愛縷〜。忙しいクリスマスが終わったと思ったら、風邪引いて今月小説書け無かったよ〜。」
愛縷「しょうがないな〜呵々は〜。テレテレッテッテ〜ン、「アッキーさんのところで書いた使い回し」〜!今月書いたこれを使えば、今月頑張った事になるよ〜。」
呵々「やったー!って、ボツ初期案じゃないですか、嫌だー。」
愛縷「黒歴史とも言うねぇ。一応、ネタバレ要素を含んでるけど…。」
呵々「まあ、多少ネタバレしても問題ないよ。来月から本気出すから。」
愛縷「明日からじゃないんだよなぁ…。」
呵々「てなわけで、これから先は「決闘時空」の物語のベースです。読みたくないよ、とか、時間がもったいない、死ね!って人は戻っていただいて結構です。では、またあとで。」


※この物語は「決闘時空」のネタバレ要素があったり、なかったり。信じるか信じないかは、あなた次第!

「決闘時空」ボツ初期案
第一章

ある夜のこと。KCの社長室に忍び寄る影があった。
部屋の電気は消されており、誰もいないのを確認し、謎の人物はデスクにあるパソコンに近づく。
「ふぅん、この俺の部屋に土足で上がり込むとはいい度胸だ。」
侵入者は背後から自分に向けて発せられる声を聞き、振り向く。その声の主はこの会社の主である、海馬瀬人であった。
「ふぅん、我が社のセキュリティを見直さなければならんな。こんな小ネズミ一匹捕まえられないとは。」
海馬は侵入者を許した自社のセキュリティの甘さを嘆いた。侵入者は未成年の高校生ぐらいの見た目であった。海馬を見て侵入者は笑顔で返事をする。
「ハハッ!社長のセキュリティは世界一ィイイイイイイイ!!と言っても過言じゃないよ。僕が侵入するのに1時間も掛かったからね。それで悪いんだけど、あのパソコンを貸してくれないかな?ちょっと探し物しててさ…。」
少年は悪びれる様子一つせず、パソコンの催促をする。この社長室にあるパソコンは重要なデータバンクであり、無いものは無いといっても過言ではないほどの莫大な情報量を保持している。
「ふぅん、貴様の目的など知ったことではないが、この俺の前に現れたゴミは処分しなければならんな。」
海馬は少年の要求を無視してデュエルディスクを展開する。
この世界の理は、デュエルが支配する。たとえ神であろうとデュエルの勝敗は絶対であり、勝者が命令すれば敗者は従わざるを得ない。
「やれやれ、こんな事はしたくなかったんだけどなぁ…。」
少年は左腕に装着していたデュエルディスクを展開する、のではなく、どこからか鍋を取り出した。
「き、貴様!!」
海馬はその鍋を見て怒りを露わにする。鍋の色は純白の白であり、ドラゴンの頭、尻尾、2枚の翼をあしらった装飾の取っ手が四方に付着していた。
そう、海馬瀬人の魂のカードである《青眼の白龍》を模した鍋である。
だが、海馬は鍋に対して怒っているのではない。むしろ、鍋の形状は好みの物であり、欲しくも思っていて、会社の商品にしようかと考えたほどだ。
「この屈辱、許しはせん!」
海馬は怒りで身を奮わせる。彼の怒りの矛先は鍋の中身であった。
その正体は…


おでん


であった。
おでんは海馬の大嫌いな食べ物であり、嫁の形を模した鍋に入れることは、嫁を穢された事に他にならなかった。

「おでんアタック!!」
「何っ!?」
少年が叫んだと思うと、海馬の頭上目掛けて鍋を投げつけた。海馬は「ふつくしい」と、鍋に見惚れて回避出来ずにおでんと鍋を頭から被った。

「ぐぎゃああああああああああ!!」
海馬の口に大量のおでんの具材が入り込み、海馬は気絶してしまった。
少年は動かなくなったのを確認し、堂々とパソコンを操作し始める。
「お、あった、あった。流石KCのデータバンク。これからは一家に一台の時代だな。」
少年はパソコンのセキュリティを難なくかい潜り、目当てのものを発見し、満足する。
「さて、行くとしますか。海馬社長、貸していただきありがとうございました!」
少年は倒れている海馬に軽くお辞儀をし、懐から名刺を出して海馬のコートの内ポケットに入れる。
「じゃね!」
少年は友人の家から帰って行くかの如く軽い挨拶をして部屋から出て行った。
翌朝、気絶していた海馬を木馬が発見する。木馬の必死の呼び掛けにより目を覚ました海馬はコートの内ポケットの名刺に気がつく。
そこに書かれた名前は…


大庭 基(おおにわ はじめ)


その日のテレビニュースで取り上げられ、話題になったデュエリストフォースを襲撃した犯人の名前でもあった。

第二章
「ふぅ〜、買った買った。」
基はKCから立ち去った後、スーパーで買い物をして出てきた。
両手に持った二つの袋はパンパンに膨れており、大量に買い物をしたことが伺える。
「さて、タクシーで行くとしますか…。」
基はデュエリストフォースまでタクシーで向かおうとして、財布の中身を確認する。
「あ…。」
しかし、財布の中身は小銭ばかりでどう見繕ってもタクシーの初乗り料金にも満たない。
「やれやれ…。」
基はタクシーに乗ることを諦め、ずにタクシーを呼び止めた。
タクシーの後部座席のドアが開き、基は乗り込むと「デュエリストフォース本部まで。」と言ってドアを閉める。
初老の運転手はドアが閉まるのを確認するとタクシーを発車させた。

「お客さん、タスクフォースの人?」
「あ、わかります?」
「デュエリストフォースに行く奴はそこで働く奴か、自首する奴のどちらかだからな。」
道路をゆっくり進んでいる間、二人は他愛ない話をする。
5分ほど話していると、基はある話を切り出した。
「さっき、タスクフォースに行く奴はそこの隊員か自首する奴って言いましたよね。」
「ああ、あんちゃんは隊員なんだろ?」
「実は、どちらでもないんですよ。」
「は?」
運転手は基が言ってる事の意味がわからず、一瞬だが思考が停止する。その時を見計らっていたのか、基は後部座席から乗り出し運転手の首を腕でロックして締め上げた。
「ぐ、がぁああ……!!」
運転手は必死に振りほどこうとしたが、抵抗虚しく酸欠になり気を失う。
タクシーは運転手を失い、道を蛇行するが、基は素早く運転手を助手席に倒し、運転席に乗り出すとブレーキを踏み停車させた。
「悪いね、おじさん。これから先は危険なんで降りてもらうよ。」
基はドアを開け、運転手を外にゆっくり置いた。それを見た通行人の女性は悲鳴を上げ、それを聞いた人々は携帯で警察に連絡をする。
基は急いでタクシーを出し、その場から立ち去った。

タクシーを飛ばしていると、後ろからサイレンを鳴らした白バイが追いかけて来る。どうやら、先程の通行人が呼んだ警察のようである。
「待ちやがれー!この牛尾 哲、タクシー泥棒とスピード違反は許さーん!」
「わざわざ名乗ってきたぞ…。それに待てと言われて待つ馬鹿はいない。」
基は牛尾の警告を無視して、減速するどころか加速していく。
「く!待て、つってんのによー!こうなったらデュエルで拘束する!フィールド魔法《スピード・ワールド》強制発動!」
牛尾はバイクのハンドル下に装備されたデュエルディスクのスイッチを押す。すると、バイクから白い波動の様なものが発生し、背景が青白くなった。
「これはライディングデュエル!噂には聞いていけど、実装されていたなんて…。」
ライディングデュエル中は乗り物のスピードは制限され、敗北すれば一時的に乗り物は停止する。つまり、基は負ければ逮捕されるのだ!逮捕されるのだ!のだ!
「こうなったら仕方ない。デュエルだ!」

「「デュエル!!」」

「先攻は第一コーナーを取った方だ!」
牛尾はスピードを上げ、タクシーを外側から追い越そうとする。

「かかったな、アホが!」
基はタクシーを牛尾のバイクにぶつける。
「うおっ!?」
牛尾のバイクはガードレールにぶつかり、よろめく。それを見逃さなかった基はバイクをガードレールに挟みながらタクシーを走らせる。
「ぐあー!!」
ガリガリとバイクの装甲が削れていき、乗っている牛尾も破片で傷を負っていく。
「ふははっ!第一コーナーはもらったよ!」
第一コーナーの手前でタクシーの拘束を緩め、基は一気に牛尾を突き放す。
「て、てめぇー!!」
デュエルが始まる前にも関わらず、牛尾は既に満身創痍である。そんな牛尾のことを無視して、基は高らかにカードをドローする。
「僕の先攻、カードをドロー!(手札5→6)
「まずはカードを2枚セット!(手札6→4)そして、魔法カード、《エクスチェンジ》を発動!(手札4→3)」
「馬鹿め!《スピード・ワールド》中に通常の魔法カードを発動したプレイヤーは2000ポイントのダメージを受ける!」


大庭 基 LP4000→2000


ライディングデュエルでは初期のライフポイントが4000しかない。スピードスペルではない通常の魔法を使えば2000ポイントのダメージを受け、すぐに窮地に立たされるのである。
しかし、基のタクシーはダメージを受けてもビクともしなかった。
それもそのはずである。普通、ソリッドヴィジョンによるダメージはデュエルディスクから射出させられるソリッドヴィジョンシステムが遠隔操作でデュエルディスクに衝撃を与えるのだが、車内にいる基はダメージは通りづらいのである。それどころか、デュエルディスクは助手席に置いてあるため、デュエルディスクによる衝撃を基は全く受け付けず、助手席が揺れても運転に何ら支障は無かった。

「さて、お互い手札交換と行きましょうか。」
「はっ!?て、手札交換だと!?ま、待ってくれ!」
牛尾はことの悪さに気がつく。ライディングデュエル中に互いの手札交換はやりづらいどころか、下手をしたらハンドル操作を誤って大事故になりかねない。
※お気づきの方もいらっしゃると思いますが、この頃はライディングデュエル開発初期で、オートパイロットなど温いシステムはありません。

「さあ、手札交換だ!」
「ぐ!わ、解った!!」

基の手札:《火の粉》、《火の粉》、《火の粉》
牛尾の手札:《ゴロゴル》、《モンタージュ・ドラゴン》、《アサルト・ガンドッグ》、《ファイナル・カウントダウン》、《ギャクタン》


「良い手札だ!《モンタージュ・ドラゴン》でももらおうか。」
基は車の窓から手を出し、素早く牛尾の手札から《モンタージュ・ドラゴン》を奪い取る。
「お、俺は《火の粉》を…。」
牛尾は基から《火の粉》のカードをもらおうとする。牛尾はまた何かされるのではないかと、内心ビビっていたが、基は素直にカードを渡した。
「ほっ…。」
牛尾は無事カードを渡されホッとするが、すぐさま基は気が抜けた牛尾にガードレールサンドイッチを味合わせる。
「ぐぁああ!てめぇええ!」
「悪い、悪い。片手運転は苦手でねぇ。」
「今明らか両手運転してただろ!!」
「安全運転出来てますな!」
「こ、こいつぅ!!」
牛尾は基の茶化しによって、身も心もボロボロになっていた。

「さて、これで僕のターンは終了だよ。」
「くそぉ!こうなった以上、タダでは済ませねぇぞ!俺のターン、ドロー!(手札5→6)」

牛尾:(SPC(スピードカウンター)0→1)
基:(SPC0→1)

後攻の牛尾のターンになると二人のスピードカウンターが一つ増える。それに合わせてタクシーとバイクのスピードも加速した。
(今引いたカードは《切り込み隊長》!こいつを召喚して効果で《アサルト・ガンドッグ》を特殊召喚し、総攻撃を仕掛ければあいつのライフは0になり、俺の勝ちだ!)
「考えてるところ悪いんだけど、罠カード発動するね。手札2枚を捨てて、《メテオ・プロミネンス》を発動。(手札3→1)」
「め、《メテオ・プロミネンス》だとぉ!?」
《メテオ・プロミネンス》は手札2枚をコストに2000ポイントのダメージを与えるカードである。通常のデュエルではライフポイントが8000であるため使い勝手が悪いが、ライディングデュエルにおいてはライフの半分を奪い去る凶悪
なカードに化けるのだ。

「のぁああああああああ!!」
業火が牛尾に襲いかかり焼き尽くす。基の時とは違い、バイクに乗っている牛尾はソリッドヴィジョンの衝撃を直に受けてしまう。
また、ライフが1度に1000ポイント以上減ってしまったため、スピードカウンターが減り、バイクも減速してタクシーから距離が離れてしまった。


牛尾 哲 LP4000→2000
SPC1→0


「ふはは!牛の丸焼きいっちょあがり!さあ、トドメだ、《強制詠唱》を発動!」
「ここで《強制詠唱》!?やつの手札には《火の粉》しかねぇ。それに、魔法を発動すれば《スピード・ワールド》の効果で2000ポイントのダメージを受けて敗北するぞ!?血迷いやがったか!?」
牛尾はダメージを受けすぎて冷静な判断が出来なかった。そう、ここで《火の粉》を発動してしまえば2000ポイントのダメージを受けて敗北するのである…。
「宣言するのは牛尾さんの手札にある《火の粉》だ!さて、ここで問題です。《火の粉》を発動したプレイヤーは誰でしょう?」
「あ…。あああああああああ!?」
牛尾は自分の手札に目をやり、真実に気がついた。《強制詠唱》は選択したプレイヤーに宣言した魔法カードを発動させるカードである。つまり、魔法カードを発動したのは…

「どぅあああああああああああ!!」

牛尾 哲 LP2000→0


牛尾のバイクはダメージを受け、完全に停止する、と思われが、車体へのダメージがヒドく、強制的に停止するシステムが上手く働かずクラッシュしてしまった。
「ふはは!アディオス、牛尾さん!!」
基は高笑いしながらタクシーを飛ばして行った。



第三章
「今日は冷えるな。ほら、ココアだぞ。」
「ん、ありがと。」
デュエリストフォース本部の入り口でいちゃいちゃ(?)しているのは遊撃騎の一人、朝比奈 翔子と日本支部リーダーの佐野 春彦である。
「それにしても、ホントに来るのかしら?」
朝比奈は佐野からもらったココアを飲みながらぼそりと呟く。
「それはわからん。だが、用心したことに越したことはないことは確かだ。」
数十分前、デュエリストフォースに連絡が入った。タクシー強盗が現れ、デュエリストフォースの隊員と名乗り、向かっていると言うものだ。
「しっかし、馬鹿よね。そいつ一人なわけでしょ?単身でデュエリストフォースに乗り込もうなんて自殺志願者みたいなものよ?」
「残念だが、俺にはそういうやつの心理を読み解く力を持ち合わせていない。波佐間の考えもデュエルするまでわからなかったからな。」
「つまり、デュエルすれば解るってこと?あたしそういうの苦手なのよね。」
「お前は考えるより先に倒してしまうからな…。まあ、そこは任せておけ。」

二人が犯人の話をしていると、遠くからタクシーが近づいて来るのが見えた。
タクシーは佐野達から少し離れた場所で停車すると、中からビニール袋を両手にぶら下げた人物が出てきた。
「春彦、あれって。」
「ああ、おそらく強盗犯だろうな。」
「あたしが行くわ。」
「待て、様子が変だ。」
朝比奈が容疑者に向かおうとするのを佐野は静止する。容疑者はビニールから何かを取り出し、チャッカマンで火をつけ始めたからだ。
火をつけると容疑者は袋からうちわを取り出し、パタパタと火を起こした物を扇ぎ始める。そして、何かを取り出し、焼き始めた。
「こ、このにおいは!?」
「なん…だと!?」
漂う香りから二人は容疑者が何を焼いているのか理解する。
そう、この香りは肉を焼いているにおいである。
容疑者は焼き肉をし始めたのだ。容疑者は肉が焼けると割り箸と紙皿、醤油とチューブ入りのワサビを取り出して食べ始める。
においに釣られたのか、容疑者を止めに行ったのか、佐野と朝比奈は容疑者に駆け寄る。

「うぉォン、俺はまるで人間火力発電所だ。」
「お前、ここで何をしている。」
「あんたが犯人ね。大人しく捕まりなさい。ついでに肉をよこしなさい!」
「翔子…違うだろ…。」
食欲に負けた朝比奈の発言に佐野は呆れていた。だが、容疑者は気分を害したのか、皿に注いでいたわさび醤油を箸で朝比奈の目に向けて跳ばした。
「ぎゃあああああ!目がー!目がー!」
「翔子!」
「モノを食べる時はね、誰にも邪魔されず、自由でなんというか救われてなきゃあダメなんだ。独りで静かで豊かで…。」
わさび醤油が目に入り、染みり、朝比奈はのたうちまわる。佐野の心配をよそに容疑者は意味不明な持論を語り始めた。
「貴様ぁ!!」
佐野は容疑者に激昂する。容疑者はヤレヤレと言った感じでクビを横に振っていた。
「自己紹介もせずに、貴様呼ばわりとは…。全く近頃の若いもんは教育がなっていないな…。僕は大庭 基。よろしくっ!」
名乗りを上げた基は懐から名刺2枚を取り出して、のたうちまわる朝比奈と睨みつけていた佐野の額に投げつけて突き刺す。
「「ぎゃああああああ!!」」
二人は名刺が突き刺さり、悲鳴を上げる。それを見て基は腹を抱えて大爆笑していた。

「き、貴様〜!!」
「春彦、デュエルで拘束するわよ!」
朝比奈は目が回復すると、春彦に共にデュエルするよう促す。それを聞いた基はデュエルディスクを展開させた。
「やっとヤル気になりましたか。僕の方は準備万端ですよ。」
「覚悟しろ!」
「瞬殺してやるわ!」
佐野と朝比奈もデュエルディスクを展開し、今、デュエルが始まろうと、する前に基が急にホイッスルを吹いた。
「ピーッ!!」
「ぐぁあああああああ!!」
「うるさぁああああい!!」
騒音を間近に聞かされ、佐野と朝比奈は耳を塞ぐ。すると、デュエリストフォースの中から男性が現れる。
「合意と見てよろしいですね?」
「ちょ、審判のあんたが何で出て来てるのよ!」
現れた男性はデュエリストフォースで働くデュエルの審判であった。
「わたくしは、公平なジャッジが必要な神聖なるデュエルを取り締まるために参りました。今、そこの少年が世界デュエリスト連合条約9条の第2節、変則デュエルにおけるジャッジマンの要請を発令しました。よって、このデュエルの審判はわたくしがさせていただきます!」
「うう…。」
「仕方ない、翔子。こっちは二人掛かりだ。」
謎の説得によって、二人は審判の同行を認めた。

「ふはは!僕が勝ったらデュエリストフォースに入れてもらうよ!」
基がデュエルの報酬の提示をすると、背後から黒い煙が湧き出て来た。
「こいつ、闇のゲームの使い手か!?」
「二対一とはいえ、油断出来なくなったわね、春彦…。」
「ん?何のこと?」
基は闇のゲームと言われて、何のことか解っていなかった。
「大庭選手、肉が焦げてますよ。」
基は後ろからの声に振り向き、佐野と朝比奈も同じ方に目をやる。
そこにいたのは焦げた肉を皿に盛って食べていた審判の姿だった。
「これ、黒毛和牛ですね。」
「美味しいでしょ。わさび醤油だとさらに風味が一新されるんですよ。」
「わたくしは塩派なんですがね。」
「真面目に審判しろ!」
「落ち着け、翔子!これも俺たちのペースを乱す作戦かもしれん!」
怒鳴り散らす朝比奈を宥める佐野。佐野は審判が買収されているのではないかと、内心疑いの眼差しで見ていた。
ともあれ、デュエルしなければ拘束する事も叶わないため、二人はデュエルディスクを展開する。

「佐野 春彦選手、朝比奈 翔子選手のタッグチームVS大庭 基選手のデュエルを始めます。ロボトルー、ファイト!」

「「「デュエル!!!」」」

「今、ロボトルって言ったよね、あの審判!?」
「翔子、もう気にするな…。」
デュエル開始早々、朝比奈は審判のボケにツッコミを入れるが佐野は構わないよう促す。
「それでは、佐野選手と朝比奈選手の先攻から…。」
「手札から《先取り天使》を捨てて、僕の先攻ですよー、と。(手札5→4)」
基はカード効果で佐野と朝比奈を横取りする。それを見て、こんな鬼畜効果のカードを考えたやつは誰だ!と朝比奈は文句を言っていた。
「ドロー!(手札4→5)そして、ファイナルターン!」
「ファイナルターン宣言だと!?」
「まだ終わってない!」
基のファイナルターン宣言に佐野と朝比奈は動揺する。いくら先攻を取ったとはいえ、手札を1枚消費、手札5枚で二人のデュエリストを葬り去るのは至難の技である。
ましてや、佐野はタスクフォースの支部長であり、朝比奈は遊撃騎であるため、1ターンキル対策の準備も怠っているはずがない。
それでも基から発せられるその自信は二人に恐怖に似た何かを植え付けた。
「魔法発動、《闇の指名者》(手札5→4)さらにチェーンして《連続魔法》を発動。(手札4→3→0)」
「手札を全て捨てて《闇の指名者》だと!?」
「あたしたちの手札を増やしてもあんたの勝ちにはならないのよ!?」
《闇の指名者》はモンスターカード名を宣言し、そのカードがデッキにあれば手札に加えさせる魔法カードである。基は《連続魔法》により、手札全てを犠牲に同じ効果をもう一度使う事が出来るが、佐野や朝比奈が言うように、これでは基が手札を失うだけではなく、佐野と朝比奈の手札を増やすだけである。
「いいえ、これで良いんです。」
基は笑みを浮かべる。その表情を見て佐野と朝比奈は確信する。基から感じていたもの、それは恐怖ではなく、狂気であると。
「さあ、いきますよ!佐野さんのデッキから《デビル・フランケン》、朝比奈さんのデッキからは《聖なる魔術師》を手札に加えて下さい!」
「なっ!?禁止カードだと!?そんなカード俺たちが入れているというのか!?」
「ふざけるのも大概にしなさい!」
基の宣言したカード名はどちらも禁止カード。本来、デッキにあってはいけないはずのカードであるのだが…

ガシャン!
ガシャン!

「はっ…?」
「えっ…?」
佐野と朝比奈は自分達の目を疑った。
デュエルディスクのオートサーチ機能でデッキからカードが排出された。
佐野には《デビル・フランケン》
朝比奈には《聖なる魔術師》

「佐野選手、朝比奈選手、両者禁止カードのデッキへの投入により、反則!よって、大庭選手の勝利!」
審判によるジャッジキルで佐野と朝比奈は敗北する。二人は何が何だかわからず、ただぼーっとしていた。
「さて、お待ちかねの罰ゲームの時間だ!」
基は口を歪ませて不気味な笑みを見せびらかせる。佐野と朝比奈はただ言うことを聞かざるを得なかった。
「二人は僕がデュエリストフォースから出るまで焼き肉を食べていて下さいね!」
「ぐっ!」
「か、体が勝手に!」
佐野と朝比奈は基の言った通り、袋から肉を出して七輪で焼き肉をし始めた。審判もどさくさに紛れて食べている。
それを見て基はデュエリストフォースに足を向ける。
「待て!」
佐野は基を呼び止める。
「あたしたちのデッキに禁止カードを入れたのはあんた?何時の間に入れたの?」
振り返る基に朝比奈は質問を投げかける。基はなんだそんなことかと、素直に返事をした。
「名刺を二人の額に突き刺した時、あなた方は名刺に目がいきましたよね。その瞬間に忍ばせておきました。」
そう言って、基は再びデュエリストフォースに向かった。

第四章
基がデュエリストフォースに入ると、歓迎かのごとく大量の隊員が押し寄せて来た。
「ごがぁあああ!!」
「ぐるるるるぅ〜!!」
「ぎじゃあああああ!!」
だが、現れた隊員達は正常ではなく、獣の様な雄叫びを上げて迫って来る。
「やれやれ、もうこんなに操られてるとは…。」
基は呆れながら隊員達を素手で倒して行く。しかし、ただ物理で殴っているわけではない。素手に魔力を溜めることで手に電気の様なものを流し、それで殴ることにより対象の脳の電気信号を一時的に止め、気絶させていく。
群がる隊員達を次から次へと倒していき、ボスっぽい人を倒した時には「敵将討ち取ったり!」などと基は呟く。
1000人倒したところでどこからか歓声が沸き上がった、気がした。

隊員達を倒していき20分ほどすると、他の隊員とは雰囲気が異なる女性が奥からやって来た。
「貴様が侵入者か。デュエルもせずに暴力を振るう姿は目に余るな。」
包帯で素顔を隠しているが、体つきと声、何より胸の大きさで女性とわかる。うん、わかるんだ。
そんな彼女は月島 火月ちゃん。火傷で皮膚は爛れてるけど、中身は立派な乙女。
最萌の称号を持っているとのもっぱらの噂だ。」
「貴様、何故私のことを知っている。」
「地の文さんとお友達だからだよ。地の文を僕の台詞にすることだってできる。」
月島は基が何を言っているのか理解できず、理解しようともしなかった。彼女は敵意を基に向けて睨みつける。
「おお、怖い怖い。僕はみんなの洗脳を解くために頑張っているのに…。」
「洗脳だと?私達は正常だぞ。」
「うん、確かに月島さんの精神は正常だけど、目と耳に問題がある。僕が倒した人達は僕に何をしてた?」
「ふん、言われなくてもわかっているくせに。デュエルディスクを構えてデュエルを挑んでいただろう?」
月島は自分の眼に写った光景をありのまま話す。だが、真実は違っていた。実際の隊員達は理性を失ったかの如く襲いかかって来ていた。そのため、基は拳で応えていたのだ。
「まあ、良いや。月島さんとはデュエルで決着を着けようか。」
「侵入者め、この月島 火月容赦せん!」
二人は構え合い、デュエルディスクを展開する。

「「デュエル!!」」

お互いにカードを5枚引き、初期手札を整える。初期手札を見た基は表情を曇らせる。
「あ、あの〜、引き直ししても良いですか〜?」
「よほど手札が悪かったのか。だが、これは神聖なるデュエル。一度決まった運命を覆すことはできない!」
基の申し述べを月島は拒む。基はそれを聞いてちょっと困った。
「不本意なんだけど、手札見せるね。」
基は渋々手札を公開する。月島は公開された手札を見て目を大きく開く。
「なん…だと!?」


《封印されし者の右足》
《封印されし者の左足》
《封印されし者の右腕》
《封印されし者の左腕》


《封印されしエクゾディア》


基がカードを掲げると《エクゾディア》が出現し、月島目掛けて火球を飛ばす。
「いかりのごうか、えぐぞーどふれいむう〜。」
「うわぁああああああああ!!」
月島は何もすることが出来ず、敗北した。こんなことなら要求を呑むべきだったと心の中で後悔もした。

「はっ!!」
月島は気がつくとベッドの上で寝かされていた。周りの医療道具などを見る限り、どうやら医務室のようである。月島はデュエルに負け、気絶したことを思い出す。

「やっと気がついた。」
目を覚ました月島の目の前に最悪の光景が飛び込む。基が立っていた。
「ぐ!私に何をするつもりだ!殺すなら、殺せ!」
生き恥を晒すくらいな死を選ぶことを月島は決意していた。だが、基は馬鹿馬鹿しいとため息を吐く。
「僕は侵入者であっても、殺人者じゃないんだよ。」
「ではなぜ、私をここまで運んだ。拘束も施していない事から察するに、人質と言うわけでもあるまい。」
月島が自分が運ばれた理由を問うと、基はしたり顔になる。そして、わざとらしく顔を近づけ囁く。
「男が女を襲う理由なんて一つしかないじゃないですか。」
「なっ!」
基は月島を抱き寄せる。月島は今まで抱いた事がなかった、否、忘れていた温もりを感じた。
かつて自分に好意を持った人間は山ほど存在していた。だが、重度の火傷を負ってからと言うもの、かつての様に愛されると言う事は無かった。
今の姿になってからも好意を持つ人間はいたが、どこか引っかかるものがあり、素直に喜べなかった。
しかし、目の前にいる大庭 基は違った、違うように思えたのだ。
「顔をよく見せて。」
「あっ……。」
基は月島の顔の包帯をほどいてゆく。ただ素顔を見せるだけだというのに、まるで服を脱がされているかの様な錯覚に陥る。いや、実際に脱がされているのと同じであろう。顔を覆う包帯は真実の姿を隠す衣であり、それをほどくということは本当の姿、裸を見られているということである。
「やっぱり、綺麗だよ。」
「えっ…。」
素顔を表した月島は驚く。基の瞳に映っている自分の姿はかつての自分を成長させた様な姿であり、一糸纏わぬ姿をしていた。
「嘘…。」
月島は体の火照りでどうかしそうだった。基の瞳を見れば見るほど自分を抑えられなくなる。
「ふふ、僕の目にはね、本当の姿が映るんだよ。」
「ほ、本当の姿…?」
「現実の姿も見れるだけじゃなくて、心を投影した姿も見れるってことさ。火傷をした月島さんの顔も充分魅力的だけど、元の顔の月島さんも可愛いな。」
「か、かわいい…。」
今の月島の姿は身も心もかつての自分であった。人の優しい温もりを素直に感じられる、これ程心地良いものであったのかと、涙すら流れそうになる。
「火月…火月って言って。」
月島は顔を赤くしながら、自分を名前で呼ぶように頼む。基はそれを笑顔で応える。
「可愛いよ、火月。」
基は月島を強く抱きしめる、そして、互いに口と口を重ね合わせる。
「ん……。」
基の舌が月島の舌を絡め取る。月島は今までにない熱を身体の内側に感じる。溢れ出そうになるそれは、彼女の理性をとろとろに溶かしていく。
自分が女であると自覚させられる。

「ぅん……。」
長く唇を交えている。基の蠢く舌はまるで自分の精気を吸っているかの様に感じ得た。
しかしそこで、違和感を感じてしまった。そう、本当に精気を吸われている、その事実に気がついてしまったのだ。
振りほどこうとしても、力が入らなく、ただ吸われていく。離れたくても愛おしくて仕方なかった。

「ふぅ、ごちそうさま。」
基は満足したのか、唇を剥がす。屈託のない笑顔を見せつけられ、月島は信じられなくても、信じたいと思っていた。
だが、切なさが彼女の口を動かす。
「にゃ、にゃんれ…。」
呂律が回らない。彼女は寂しい気持ちで押しつぶされそうになる。
「隊員のみんなと闘った時、大分魔力を使ったからね。月島さんみたいに魔力が多い人がいてくれて助かったよ。」
「ち、ちがゅ…にゃんりぇ…。」
月島は涙を溜め込む。こんな形で魔力を吸われたく無かった。どん底に陥れられたのではなく、届きそうなのに、届かない、そんな歯痒さが彼女の心を犯す。
「僕はね、みんなが大好きなんだ。だからみんなの幸せを願って行動してる。もちろん、月島さんも大好きだよ。」
基は笑顔で返事をし、医務室から出て行った。
月島は理解する。自分は確かに愛されていた。けれど、その愛は他の者達にも同様に振りまかれていた。それは悪いことではない。とても難しく、すばらしいことだ。
だから、自分に嫌気が差した。自分はその愛を独り占めしたかったからだ。
「ふぅえぇぇ……。」
月島は枕を濡らす。今はただ、それしか出来なかった。


最終章
基は辿り着く、デュエリストフォースの最深部に。いや、元、最深部である。
機械的な雰囲気で、コンクリートに覆われていた壁が今では肉片の様なもので覆い尽くされ、脈を打っているかのように鼓動する。
「外宇宙の邪神の眠りを覚ますなんて、よくそんな馬鹿なことが出来るねぇ。それはそいつの力であって、君の力じゃないんだよ。」
基は声を掛ける。
その相手は基と同じくらいの少女であった。
彼女は機械を見つめていた。カードを生産しているそれには、黒い禍々しいオーラを放つカードが組み込まれていた。
製造機からは作成、というより、カードが生み出されていると言った方が正しいであろう。
ベルトコンベアで流れているカード達は印刷する機械をくぐると、黒いカードと同じく、真っ黒に染まり上がる。
「何を言う。これは私のものになったのだから、私の力だ!もう、私は消失する恐れに怯えることはない!永遠にこの力を支配するのだ!」
基の方を向いた少女は目を真っ赤にして答える。本人は正気だと思い込んでいても、他者から見れば狂人そのものであった。
視線から感じられるのは殺意だけで、人間らしい温もりや怒りさえも感じられない。人間がそこにいるのに、別の何かがそこにはいた。
「やれやれ、話は通じないか…。手遅れにならなきゃ良いんだけど…。」

彼女の名前は那美澤 瑠衣(なみざわ るい)
デュエリストタスクフォースの隊員であった。
彼女はかつてクリムゾン・ドラグーンの地下都市で潜伏し、情報収集にあたっていた。
だが、そこで誤算があった。
地下都市に長居してしまったため、寿命を喰われ、デュエリスト能力を失ってしまったのだ。
彼女はただ怖かった。
デュエルの実力は損なっていなかったものの、いつ、デュエリストタスクフォースから外されるかわからない、居場所を失う恐怖に苛まれた。

そんな時、彼女に転機が訪れる。
地下都市を彷徨っているとクリムゾン・ドラグーンも知らない、特殊な極秘の研究施設を見つけた。そこで研究されていたカードは宇宙から降って来たカードであり、確かな“力”がそれにはあった。
彼女は魅入られた。
そして、デュエリストタスクフォースが地下都市を解放しに来た時、研究所が混乱している際にカードを盗み出した。
以降、デュエリストタスクフォースに帰ってから、彼女はその力を使った。
次々と隊員達に洗脳を施していった。カードの声に従って…。

「私の平和を乱す輩は力をもって応えよう!」
「君の自身の平和を守りたい気持ちはわからないでもない。でも、それは人を支配してでも手に入れるべきものではない!」
二人は睨み合い、デュエルディスクを構え合う。瑠衣が戦闘体制を取ると、それを「待っていました!」と言わんばかりに機械に固定されていた黒いカードが波のデュエルディスクに侵入する。
二人はデュエルディスクを展開し、声を合わせる。

「「デュエル!!」」

デュエルディスクのオート機能で瑠衣の先攻となる。
瑠衣はその事を予期していたかのようにカードをドローする。
「私の先攻、ドロー!(手札5→6)これが私の力だ!デュエリスト能力発動!外宇宙交信(ファーストコンタクト)!!」


外宇宙交信 レベル4
自分がモンスターを召喚・特殊召喚する際、自分のフィールド、手札、墓地のモンスターを素材とすることができる。


瑠衣がデュエリスト能力発動の宣言をすると、瑠衣の手札が黒い霧の様なものに覆われる。霧はカードを飲み込むと、フィールドに広がる。
「私は手札のレベル8のモンスター5体でオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚!(手札6→1)」
広がった黒い霧から宇宙空間の様なものが映し出される。瑠衣のエクシーズ召喚という掛け声に合わせて小規模の爆発が起こり、中から白い肉塊が出現する。
「邪なる心よ、今この世界に形を成せ、《邪心ナイアーラ》!!」
肉塊から無数の長い蛇に似た頭が生える。表面はヌメヌメとした粘液で覆われており、頭の部分に目は無く、口からは大量の赤い触手が伸びていた。

『ぎゃはははははは!!俺様、降臨!よう瑠衣、次の獲物はこいつで良いんだな?』
《ナイアーラ》がしゃべり始めた。ソリッドヴィジョンであるはずの存在が、まるで意思を持つ生き物の様に振舞う。召喚した涙はそれが当然の如く動揺など一切せず、対峙している基もさほど驚いた素振りを見せていなかった。
「こいつが君の言う力かな?」
「そう、この《邪心ナイアーラ》が私の能力を復活させ、尚且つ更なる力を発揮出来るようになった!」
「大勢の人達に迷惑をかけた割には弱そうだけど…。そんなカードで大丈夫か?」
基は《ナイアーラ》を見て驚くどころか、見下していた。彼の目に映るそれは、見た目よりよっぽど小さく、弱く見えている。
『カチーン!瑠衣、とっとと効果使いな!こいつの減らず口を塞いでやる!』
「言われなくてもそのつもりよ。エクシーズ素材5つを取り除き、《邪心ナイアーラ》の効果発動。相手のデッキのカードを全て墓地に送る!!」
《ナイアーラ》の口から放たれる触手が基のデッキにへばりつく。そのままデッキのカード達は消滅し、墓地に移動していた。
「はっはっはっはっ!デッキからカードを引けなくなったプレイヤーはデュエルに敗北する!これで次の貴様のターンで、私の勝ちだ!」
勝利を確信した瑠衣は高笑いを響かせる。対して、基は黙々と手札のカードを動かしていた。
「手札から《パンドラ・ホープ》を特殊召喚する。効果で手札を全て捨てる。(手札5→4→0)


パンドラ・ホープ レベル7  光属性・悪魔族
ATK0 DEF0
このカードは通常召喚できない。相手ターン中にこのカードを手札から特殊召喚できる。このカードの特殊召喚成功時、自分の手札を全て捨てる。


基のフィールドに箱が出現する。箱の開け口にはギザギザの歯が生えており、中からは舌が出ていた。所謂ミミックである。
「そんな雑魚モンスターを出したところで戦況は変わらない!無駄な足掻きだ!」
「それはどうかな?今捨てたカード、《魔轟神獣キャシー》の効果で《邪心ナイアーラ》を破壊!」
「なんだと!?」
墓地に捨てられた《キャシー》が飛び出し、《ナイアーラ》に飛びかかる。

だが、《ナイアーラ》は《キャシー》を糸もたやすく弾き返した。
「…っ!!」
「残念だったな!《ナイアーラ》には相手のカード効果を一切受け付けない耐性があるんだよ!」


邪心ナイアーラ ランク8  闇属性・天使族
ATK4000 DEF4000
レベル8モンスター×5
このカードは相手のカード効果を受けない。このカードのエクシーズ素材を5つ取り除くことで、相手のデッキのカードを全て墓地に送る。


「最後の最後に頑張ったようだけど、無駄な足掻きだったな!私はこれでターンエンド!」
瑠衣は醜悪に口を歪ませ、基の終わりを告げるかの如くターン終了宣言をする。
《ナイアーラ》も瑠衣と同様に笑っているようだった。

「僕のターン……。」
「貴様に引くカードは無い!私の勝ちだ!」
基がデッキゾーンに手を伸ばす。その先にカードは存在しない。瑠衣は勝利宣言をする。

しかし、デュエルディスクはデュエルの終了を告げなかった。基は敗北しなかった。
いつまで経ってもデュエルが終わらないことに腹を立てて、瑠衣は怒り叫ぶ。
「どうゆうことだ!デュエルディスクが故障してるんじゃねぇか!?」
基は首を横に振り、墓地から一枚のカードを提示する。それを見た瑠衣の目は大きく開く。
「な、そ、それは…!?」



インフェルニティ・ポーン レベル1 闇属性・悪魔族
ATK0 DEF0
このカードが墓地に存在し、自分の手札が0枚の時、自分はカードをドローできない。


「デッキ切れでデュエルに敗北するのはカードをドローする機会が与えられた時だけ。つまり、ドロー行為を禁じるこのカードが墓地にある限り、僕は負けない。」
「くっ!そのために《パンドラ・ホープ》を!!」
今思えば不自然なタイミングで基は《パンドラ・ホープ》を召喚していた。《キャシー》で除去したいのなら、《ナイアーラ》の効果発動する前、召喚成功時に使うべきである。それなのに、基は敢えて別タイミングで使用していた。
この違和感が瑠衣と《ナイアーラ》に恐怖を与えた。
二人はよくわからないうちに震えていた。
「さて、君の実力はわかったよ。僕には到底及ばないってことが…。」
「き、貴様が不利なことには変わらない!この状況でやれることなんか無い!」
『ふ、ふひぃ。な、なんだ、こいつ、や、やばい…。』
基が二人を睨むと二人は怯えていた。
「デュエリスト能力、発動。」

『ぐぁあああああああああああ!!』
「わ、私のカードが!?」
基がデュエリスト能力の発動宣言と共に、《パンドラ・ホープ》瑠衣の手札と《ナイアーラ》は基のフィールドに出現した宇宙空間に飲み込まれてしまった。
そう、瑠衣が行ったエクシーズ召喚を基もしているのである。

「刻む時は勝利の証、龍の形をとりて現臨せよ!エクシーズ召喚、《時刻神カイロス》!!」
前髪で目が隠され、2枚の翼を持つ龍が出現する。
その姿は神々しく、場に出ると光を放ち、周りの壁の肉壁が消えさり、製造されていたカード達も消滅していた。
「そ、そんな、《ナイアーラ》が、私の力が消えた…。」
「これが僕の力、集積の力だ!」


集積の力 レベル5
自分がモンスターを召喚、特殊召喚する時、及び、カード効果を発動する時の素材やコストを自分か相手の手札、墓地、フィールド、除外されているカードで代用してもよい。(カードの種類は問わず、好きな枚数を好きなように扱える。)


「ば、馬鹿な…。そんな能力が…。」
「《時刻神カイロス》で攻撃!」


那美澤 瑠衣 LP8000→4000


《カイロス》の放つ光が瑠衣に取り憑いていた闇を払うかのように、降り注ぐ。瑠衣は叫び声を上げるが、不思議とそこまで痛みを感じず、むしろ、温もりを感じていた。

「《カイロス》の効果発動。エクシーズ素材を取り除き、もう一度僕のターンにする!」


時刻神カイロス ランク12  光属性・悪魔族・エクシーズ
ATK4000 DEF4000
レベル12モンスター×5
自分のターン中、エクシーズ素材を1つ取り除くことで、そのターンを終了し、自分のターンを追加する。


「ラストアタックだ!」
《カイロス》の優しい光が瑠衣を包み込む。瑠衣はライフを失い、安らかに気絶する。


那美澤 瑠衣 LP4000→0


倒れた瑠衣に基はゆっくり近づき、耳元で囁く。
「ここで君がやったことのみんなの記憶は消しておくよ。それから、君がどう自分と向き合うか、考えてみてね。」
そう行って、基は去って行く。眠りに着いた瑠衣の表情は優しげで、一粒の涙が流れた。


基は何事も無かった様にデュエリストフォースを去った。
体の自由が戻った佐野と朝比奈は施設に入ると、大勢の気絶している隊員達を目の当たりにする。幸い気絶しているだけで、どこも怪我などをしておらず、二人は胸を撫で下ろす。
ただ、月島はどこか哀しげな顔をしていたのが、二人には引っかかていた。



とある町の一角で基は新聞を眺めていた。その記事にはデュエリストフォースを襲撃した人物、自分の名前が書かれていた。
「やれやれ、人助けしたつもりなんだけどなぁ…。」
基は新聞を畳み、ゴミ箱に捨て、ポケットから一枚のカードをひょいと出す。
「《邪心ナイアーラ》…。宇宙から来た邪悪なる神のカード…。はあ、あといったい何枚あるやら…。」
基はデッ デッキケースに大量にある黒いカード達の中に《ナイアーラ》を加える。そして、歩み出した。
「さて、次は地下都市に探しに行くとしますかな。」
大庭 基、彼の闘いはまだまだ終わらないようであった。


終わり





〜あとがき〜
さて、「決闘時空」初期ボツ案いかがだったでしょうか。
元々、「決闘時空」は、豆戦士さんの「決闘学園!」シリーズとあっぷるぱいさんの「プロジェクト」シリーズの創作作品であるアッキーさんの「決闘都市」のさらに後の世界を描いた作品として創作させてもらいました。
急に那美澤 瑠衣と言うキャラクターが最後に出てきましたが、これは最初に瑠衣を主人公にしたシリアスパートと、基を主人公にしたギャグパートを交差させていこうとした名残です。つまり、今回の作品はギャグパートしかお見せ出来ていない訳ですね。
とはいえ、シリアスパートは救いの無いバッドエンド決定ルートを描くので、今後書く予定はあまり無いです。(本編もまだだしね!)

お気づきの方もいらっしゃると思いますが、このボツ案の基の立ち位置は本編の愛縷と似ています。愛縷の元ネタはこの基ってことですね。
他にも、《邪心ナイアーラ》の効果が《闇聖霊−メギドラゴン》と似ています。これも流用したからです。
そう、この初期案のお話やカードは今後本編でも流用がされます。
つまり、登場キャラクターも出てくる“可能性”があります。
そもそも、「決闘時空」の世界は、この前の「忙しい人のための決闘学園!」で描かれていたリンネの夢世界、パラレルワールドです。そのため、このボツ世界も一つの世界として確立しています。
無数にある世界のお話、それが「決闘時空」!
今後も、本編だけでなく、色々なお話が出てくると思うのでよろしくお願いします。

え?だれたから本編早く終わらせろ?
ふはは!あと3年は書けるぞ!(おい
一応、今までの話をちゃんとまとめていく予定が1月にありますので、ご勘弁を…。

それではみなさん、よいお年を!

「決闘時空(デュエルスペース)初期ボツ案 ※ネタバレ注意」へのコメント

コメントはありません。
コメントを書く
[*最近][過去#]
[戻る]

無料HPエムペ!